Civicus Monitor 2024から見た世界の市民社会スペース

(2025.1.3更新)

高柳 彰夫

 2024年12月4日に世界の市民の政策参加に関する国際ネットワークであるCivicus(本部:南アフリカのヨハネスブルグ)は、市民社会スペースの状況に関するCivicus Monitorの2024年アップデート版を発表した(※)。

※Civicus Monitor 2024 https://monitor.civicus.org/globalfindings_2024/

 Civicus Monitorでは、世界各国・地域の市民社会スペースの状況を、「閉ざされている」(closed)、「抑圧されている」(repressed)、「妨げられている」(obstructed)、「狭められている」(narrowed)、「開かれている」(open)の5つのランキングで評価されている。Civicus Monitorは、国際人権CSO(特に市民的・政治的権利を扱う)Freedom Houseの結社の自由に関する指標、国境なき記者団(RSF)の報道の自由指標など既存の他の指標と、Civicusが自ら、または提携する人権CSOネットワークから得る情報・通報を指標化したものとを合わせてスコア化(100点満点)され、「閉ざされている」は0-20点、「開かれている」は81-100点と、20点刻みでランキングを確定している。

 2024年版Civicus Monitorでの以下のようになっている。

(出典)Civicus Monitor 2024

 そして5つのランキングごとの国・地域数と世界人口に占める割合は以下のようになっている。

国・地域数世界人口に占める割合(%)
開かれている(open)403.6
狭められている(narrowed)4211.1
妨げられている(obstructed)3512.9
抑圧されている(repressed)5142.4
閉ざされている(closed)3030.0
(出典)Civicus [2024]をもとに筆者作成

 2024年版では、前年に比べてオランダ(開かれている→狭められている)、モンゴル(狭められている→妨げられている)など9か国のランキングが悪くなり、日本(狭められている→開かれている)、バングラデシュ(閉ざされている→抑圧されている)など9か国がよくなった。

 日本で生活する私たちにとって2024年版における大きな驚きは、日本のランキングが上がったことであろう。日本は2017年にCivicus Monitorが最初に出版されて以来、常に「狭められている」のランキングにあったのが、2024年にはじめて「開かれている」になった。スコアでいえば、2023年には79点であったのが、2024年には84点となった。これまではアジアでは台湾が唯一の「開かれている」ランキングであったが、今回、日本は「開かれている」に格上げされただけでなく、スコアで台湾(82点)を上回った。またG7諸国ではカナダと日本だけが「開かれた」ランキングとなった。Civicus Monitorのウェッブサイトの日本のページでは、報道の自由指数の低下、沖縄における反基地・平和運動への対応などの問題が指摘されているにもかかわらず。

 Civicusは各国・地域のランキングやスコアの算定根拠については詳細に明らかにしていない。ただ、筆者がCivicusを含め市民社会スペースに関心がある世界のCSO関係者と対話してきた経験からすると、日本では、特に新型コロナ(Covid-19)パンデミックの中で、先進国も含め、緊急事態に関する憲法条項や法規定を利用したものも含め、ロックダウンやマスク義務化などが法的拘束力や罰則も伴って実施されたのに対して、日本の場合はロックダウンなど法的拘束力を伴った措置が実施されなかったことが注目された。背景には日本は現行法では法的拘束力を伴った措置の実施が限定されるからである。しかしながら、日本の集団同調文化を利用した自粛要請や、商業施設・交通機関への要請という形でさまざまな実質的規制が実施されたのも事実である。

 Civicus Monitor(や他の人権に関する指標)では日本特有の集団同調や自粛といった文化は指標化困難である。このことが、日本における市民社会スペースの向上が実感されないにもかかわらず、今回ランキングが上がったことの背景にあろう。筆者個人としては日本に現れた政治文化を使用した非公式な規制を指標に取り入れる可能性をCivicusに研究をお願いしたいと考えている。


高柳 彰夫(たかやなぎ・あきお)

フェリス女学院大学国際交流学部教授。市民社会スペースNGOアクションネットワーク(NANCiS)アドバイザー。