高市自民衆院選大勝後、日本の市民社会スペースと市民社会はどうなるか

加藤良太

 2026年2月8日(日)投開票の第51回衆議院総選挙で、高市早苗首相率いる与党・自民党が単独で定数の3分の2を上回る316議席を占め、未曾有の大勝利を収めた。選挙結果や有権者の選択の評価はいろいろあろうが、ここでは、この選挙結果とそれがもたらす日本の政治、経済、社会状況の中で、市民社会スペース(※1)や市民社会(※2)そのものがどうなるか、展望してみたい。

 昨年(2025年)10月21に発足した高市政権は、全体として極右、権威主義、ポピュリズムの傾向をもっているとされる。実際、政権発足当初から、訪日・滞日外国人の問題や中国の脅威など「外患」を過度にクローズアップし、排外主義に傾く世論をうまく扇動しながら、「外国人政策」と称する滞日・訪日外国人への管理・統制強化、スパイ防止法制定や国家情報局の創設、安全保障関連3文書の前倒し改訂、非核三原則の見直し、基本的人権の制限や9条改正、緊急事態条項を含む憲法改正などを打ち出してきた。これらの政策は、表看板は「外患への備え」を掲げながら、実際は、日本に住まう人々の自由・人権の制限や抑圧、人々の思想、言論、結社、活動への監視、日本社会の軍事化と動員の強化を企図するものである。そうした高市政権の「本音」は、同じく打ち出された国旗損壊罪の創設や、自衛官の階級の「軍隊化」などからも垣間見える。これら、高市政権が打ち出した政策の実現に向けた「白紙委任」を打ち出して行われた総選挙での大勝により、そのスピードは加速度的に高まる可能性がある(※3)。こうした動きの中で、とりわけ人々の尊厳や権利を守り、かつ、そこに依拠して活動してきた市民社会や、その活動空間である市民社会スペースは、どのように影響を受けることになるのか。

 私が所属する、日本の国際協力NGOがネットワークして国内外の市民社会スペースの擁護・拡大に努めるNGO「市民社会スペースNGOアクションネットワーク(NANCiS)」では、これまで、市民社会スペースへの圧迫、萎縮につながるとして、いずれも上記でいう「外患」への備えとされた、特定秘密保護法(2013年)、共謀罪法(2017年)、土地規制法(2021年)の反対運動(広範な人々、市民社会、法律家などが加わった)に加わるとともに(※4)、施行後のモニタリングにも加わってきた。その過程で認識したこととして、1)広範な反対運動や継続した市民社会や法律家のモニタリングにより、政府は法律の実際の適用による「弾圧」には抑制的になっている、2)一方で、反対運動に加わった際に圧力を受けた体験や、法律の存在そのものが市民社会の萎縮、自粛効果につながっている側面はある、ということである。とりわけ、日本の市民社会特有の成立・成長過程の中で、十分な自立性・独立性を養えぬまま公的資金や国・自治体からの事業受託、指定管理に経済的に依存せざるを得なかったNGO・NPOにとっては、2)の影響を強く意識せざるを得ない状況がある(※5)。高市政権が進める前述の政策実現が加速するということは、市民社会が反対し、対峙すべきターゲットが増え、かつ強力になるということでもある。それでも、上記1)の牽制、抑制効果に期待して行うべきではあるが、限られた市民社会の力量の中で、広範で持続的、効果的な取り組みをどう作り出していくのか、問われることになる。

 一方で、具体的で実効性ある取り組みが難しいのが上記2)である。市民社会スペースでの萎縮、自粛効果は、それぞれの団体、現場、個人に体験的に刻み込まれている。当事者が受けた衝撃やダメージを考えれば、また、当事者それぞれの力量には限りがあり、当事者自らが言論、活動への圧力や圧迫感について対外的に声を上げたり、自力で被害からの救済、回復を図るのは容易ではない。それどころか、圧力を受けたり、圧迫感を覚える当事者が安心してそのことを打ち明けられず、心理的に孤立してしまうような状況も見られるのが現実である(※6)。そのことを考えれば、市民社会スペースに関する事柄について、同じ分野や分野を超えて、市民社会として活動する個人や団体が連帯することは必然として、市民社会のネットワークとしてよくある、ある社会問題やその解決を対外的に訴え、解決への取り組みを広げるためのネットワークだけでなく、セクターとしての市民社会やその中の各分野の中で、団体や個人の言論や活動を互いに守り、何かあれば孤立させず、心理的・物理的安全を確保した環境の中で状況や被害を打ち明け、孤立することなく、共に救済、回復にあたっていけるような、「内側に向けた」助け合い・孤立しないためのネットワークも必要であろう。また、今後、前述のような高市政権の動きが活発化してくれば、従来抑制されてきた上記1)のような「弾圧」が見せしめ的に出てくる可能性もある。その時に、セクターとしての市民社会が当事者個人・団体を決して孤立させず、権力や社会からのいわれなき指弾から守り、物心両面の「救援」にあたれるよう備えをしていくことも重要である。NANCiSは、国際協力NGO分野に限られてはいるが、これらの役割を志向して設立、運営されている。あまりしたくはない想定ではあるが、NANCiSや連携する法律家団体なども含め、今後、市民社会スペースに起こりうる状況に向けて、市民社会内部の連帯と共助の体制も整えていくことが必要ではないか。

 加えて、今回の高市政権の政策動向と合わせて、日本の市民社会や市民社会スペースのこれからを考える上で、憂慮されるべき事柄を二つ指摘したい。

 一つは、とりわけ国際協力NGO、環境NGO、人権NGOや国内・地域の多文化共生に関わるNGO・NPOに関わることであるが、排外主義の高まりと市民社会への影響である。日本の戦前の治安維持法や軍機保護法の例や、諸外国の例にもあるように、権力が自由な思想、言論、結社、活動を規制しようとするとき、排外主義的な危機感や世論の高まりをフックにすることが極めて多い。この際、スケープゴートになることが多いのが、国家間や経済的な関係とは別に、海外の人々や市民社会と独自のパイプをもつ市民社会である。現に、東西冷戦終了後に一度民主化を進めながら、近年再び権威主義の傾向を強めているロシア、カンボジア、ハンガリー、ジョージアなどでは、海外の助成財団などから資金調達を行なっていたり、海外の団体と交流や協力を行なっている団体(NGO・NPOや独立系メディアなどをターゲットとする)を「外国の代理人」として指定し、政府の厳しい規制・監督下におき、活動を制限することを企図している(※7)。日本でも、高市政権が成立を目指すスパイ防止法案の中には「外国代理人登録制度」が含まれるが(※8)、同法案に対する日本弁護士連合会の意見書では、この制度が市民社会やメディアの活動規制につながる危険性が指摘されている(※9)。国際協力NGO、環境NGO、人権NGOや国内・地域の多文化共生に関わるNGO・NPOが、今後の日本社会で排外主義的な傾向が高まり、政府がそれを利用して外国勢力の規制を強化しようとする時、何らかのきっかけでスケープゴートとされる危険性がないとはいえない。市民社会は日本社会や政府の動向をよく注視しておくべきだろう。

 もう一つは、インターネット空間での言論や活動と市民社会の関わりである。一般に他セクターに比べて、ヒト、モノ、カネといった活動資源が乏しい市民社会にとって、1990年代半ばから一般への利用が広がったインターネットは、団体運営の上でも、活動や主張を一般社会に広げ、国・地域や分野、属性を超える幅広いネットワークを築くためにも、極めて有用であった。一方で、インターネット空間での言論に特有な、いわゆる「炎上」や誹謗中傷、フェイクニュースの流布、それらに扇動された団体運営や活動現場への具体的な妨害行為などにより、市民社会の団体や個人が被害を受けるケースも増えてきている。インターネット空間での言論は、相手と対面せず、匿名的に行うことが容易であることから攻撃性が高まることも少なくなく、また、検索エンジンやSNSに組み込まれたアルゴリズムの作用もあって、特定の情報や言説が真偽に関わらず、人々の好奇心の赴くままに爆発的に広まることから、被害の拡大が早く、一方で抑制は容易ではない。そのため、被害を受けた団体や個人のダメージは大きく、長期に及ぶことも少なくなく、回復も時間がかかることになる。さらに、こうした行為の加害者や加担者は「匿名の一般人」ばかりでなく、政権や政権に近い勢力が資金や組織・人員を投入して、政権に反対する勢力への攻撃や世論誘導などを図ろうとするケースがあることも明らかになっている(※10)。日本のインターネット空間での言論においては「ネット右翼」など、右派や政権への親和性が高い傾向があるとされる。また、日本社会の特徴として、いわゆる「お上」や「世間」に弱く、人々がその流れに迎合、追従しがちなところがある。こうした日本のインターネット空間や日本社会そのものの「土壌」のもとで、高市政権の「外患」を理由とした抑圧的な政策やそれを支持する世論が高まるとき、それに批判的・対抗的な意見や活動をもつ市民社会がインターネット空間の言論や活動を通じて、思わぬタイミングで大きな攻撃を加えられることもあり得ないことではない。市民社会の限られた能力で、ビックテックにインフラからサービスまでを握られたインターネット空間や、そこでの言論、活動の状況をモニターすることには限界があるが、それでも、市民社会や市民社会スペースの自由を守るため、懸念される動向については、しっかりとモニターしていくことが必要であろう。

 このように、高市政権が進める「外患」をテコとした安全保障、インテリジェンス強化などの諸政策の推進や、それを後押しする排外主義的な世論の動きは、歴史的にも、諸外国の例をみても、また、さまざまな側面から、市民社会や市民社会スペースを抑圧する可能性が決して低くない。日本の市民社会は、国内では分野を超えて、海外の市民社会とも連携しながら、これからの市民社会スペースや市民社会そのものの状況をモニターし、憂慮すべき事態には連帯して声を上げ、かつ「万が一」の事態に向けての備えも進めていくことが必要ではないだろうか。


※1:市民や市民社会が自由に言論、活動でき、その尊厳や権利が守られる社会空間を指す。社会空間の中には、路上、広場、公共空間といった物理的空間と、言論空間やインターネット空間といった概念的空間が含まれる。
※2:ここでは主にNGO、NPO、市民運動、市民活動、ボランティア活動や、それらから成るセクターを指す。
※3:第51回衆議院総選挙後の第221回国会(特別会、2026年2月18日(水)召集)では、2026年度予算の2025年度内成立をめざして、早くも高市政権の強引な国会運営が見られること、同3月13日(金)には国家情報会議、国家情報局を設置するための法案(国家情報会議設置法案)が閣議決定され、同国会での成立をめざすとしていることからも、その懸念は強い。
※4:NANCiSでは、ほかにも経済安保推進法(2022年)、経済安保情報保護法(セキュリティ・クリアランス法、2024年)についても、同様の危険性を踏まえて法律家などと情報交換を行なってきた。
※5:こうした、日本の市民社会特有の市民社会スペースでの萎縮、自粛効果については、NANCiSが2020年2月に実施した研究会の内容を採録した『「SDGsゴール16と国際協力NGO」研究会報告書』(2021年)に詳しい。 https://nancis.org/sdgs16ngo2020/
※6:上記「※4」の報告書参照のこと。
※7:非営利団体に関する法律の改正法(ロシア、2012年)、結社及び非政府組織に関する法律(カンボジア、2015年)、外国資金調達団体の透明性に関する法律(ハンガリー、2017年)、外国影響力透明性法(ジョージア、2024年)など。
※8:米国の外国代理人登録法(FARA、1938年)をモデルとし、主に外国政府や外国企業のロビー活動を日本国内で行う団体・個人の登録を求めるものであるとされる。
※9:日本弁護士連合会「現在、「スパイ防止法」として制定に向けた動きのあるインテリジェンス機関強化法制及び外国代理人登録制度についての意見書」(2026年2月20日付) https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/opinion/2026/260220.pdf
※10:X(旧Twitter)のアカウント「Dappi」(2019年6月開設)が、政権を批判する野党議員やマスメディアに対し、誹謗(ひぼう)中傷と捏造(ねつぞう)の投稿を繰り返し、そのツイートを組織的に発信していた企業が自民党本部事務総長と親密な関係にあり、同党東京都支部連合会などから多額の政治資金を受け取っていた問題など。


加藤 良太(かとう・りょうた)

アドボカシー・オーガナイザー。市民社会スペースNGOアクションネットワーク(NANCiS)コーディネーター。認定NPO法人 環境市民 理事。

※本コラムは加藤良太の個人note(https://note.com/katoryota/n/n751c3c82a598?sub_rt=share_pw)で掲載したものを、同意の上で転載したものです。