(2021.2.10更新)
市民社会スペースNGOアクションネットワーク(NANCiS)は、協力関係にある市民社会スペースを擁護する世界の市民社会のネットワーク「VUKA! Coalition for Civic Action」を通じて呼びかけられた、アントニー・ブリンゲン米国務長官宛2月9日付の共同書簡に賛同しました。同書簡は米バイデン新政権に、米外交の基本に人権擁護者(活動家)や市民社会スペースの擁護をすえるべきとの内容で、8ページにわたり、かなり広範かつ具体的な提言が述べられています。
現在、ミャンマー情勢は緊迫し、クーデターへの反対を訴えるミャンマーへの民衆や市民社会への弾圧が生じつつあります。本書簡の体裁は国際情勢全般を対象とし、ミャンマーだけを対象とするものではありませんが、書簡には、ある国の人権抑圧に対し、その国に設置された在外公館(大使館)が人権擁護者(活動家)の保護・救済に動くべきであるとの内容が含まれるなど、ミャンマー情勢に具体的に関わる事項も含まれています。
以下、共同書簡の本文(英語)および紹介ページ、NANCiSコーディネーター・谷山博史による解説です。
<共同書簡本文(英語/PDFファイル)>
https://earthrights.org/wp-content/uploads/Civil-Society-Letter-to-Secretary-Blinken-on-HRDs-Feb-2021.pdf
<共同書簡紹介ページ(英語)>
https://earthrights.org/media/advocates-urge-sec-blinken-to-step-up-support-for-human-rights-defenders/
※いずれも本共同書簡起草に中心的な役割を果たした米NGO「EarthRights International」ウェブサイトに掲載
<谷山博史による解説>
ミャンマーでの軍事クーデターを予想していたかのような内容かつタイミングでアメリカ新政府に対する提言が準備されていました。人権擁護者(活動家)の保護と市民社会スペースの擁護をアメリカ外交の基本政策に据えろという提言レターです。内容は逃げ道がないように網羅的、効果を生み出せるように具体的で、反論しにくいように分析的かつ説得力に長けた提言になっています。
提言のカバーするところは広範ですが、例を上げると各国の現場レベルで人権擁護者を保護できるように大使館を活用したり、他国の大使館と連携して当事国政府に働きかけるといったこと、また国際人権理事会でのイニシアティブを発揮すると同時にサポートすること、UNESCOのジャーナリズムや表現の自由の保護者としての機能を認識し支援に回帰することなど、重層的で面白い。
極めつけは、自身が人権擁護者のフリをして裏では安全保障や企業の利益擁護のために本当の人権擁護者を弾圧するものに手を貸しているけど、それはやめて、市民社会スペースを守ることが安全保障と企業利益になるよう政策一貫性を確保することが大事だと指摘している点です。「アメリカが人権擁護者に戻る」という眉唾をこの部分が見事に払拭しています。ビジネスと人権について、先住民の権利や地域の資源と環境を守るための住民の権利についてもしっかり触れられています。
以下特筆すべき部分を4箇所だけ抜粋します。
「大使館が脅威にさらされている人権擁護家とのオープンで、明確で、安全で、持続的なコミュニケーションのラインを確立するのを助ける、堅牢で公に面した運用ガイドライン。これらのガイドラインは、米国および受入国の人権擁護家、市民社会、メディア組織と協議して作成する必要があります。協議は人権擁護家の多様性を反映するべきであり、大規模な市民社会組織、米国政府の資金提供を受けている組織、または大都市に拠点を置く組織に限定されるべきではありません。ガイドラインは現地の言語に翻訳し、米国大使館のウェブサイトに目立つように掲載する必要があります。」
「外国の治安部隊、司法および刑事司法機関、多国間金融機関、開発支援、および企業に対する米国政府の支援を検討する事務所が、人権擁護家に対する報復との潜在的なつながりを認識していることを確認するための内部審査および省庁間の調整手順。」
「同様に、私たちは国務省に対し、人権の尊重を促進するのに役立つ国連教育科学文化機関(UNESCO)との再関与を要請します。ジャーナリストの安全と免責の問題に関する国連行動計画の実施を担当する主要な国連機関として、ユネスコへの支援は、ジャーナリストが報復を恐れることなく働くことができるようにすることに本質的に関連しています。国務省はまた、ユネスコの有効性と影響力を高めることを約束する必要があります。」
「米国政府は、世界銀行グループおよびその他の多国間開発銀行(MDB)の取締役会の議席を利用して、報復へのより強力な対応と、暴露または発言するジャーナリストやブロガーを含む人権擁護家を保護するための予防措置を提唱する必要があります。これらの機関によって資金提供されたプロジェクトで発生する人権の腐敗または侵害に対して。特に、米国政府は、MDBとそのクライアントに、プロジェクトの実施前に人権のデューデリジェンスを実施し、プロジェクトの実施中に人権中心の業績評価指標を採用する義務を果たすように促す必要があります。」