SDGs16+に関する2021年ローマ市民社会宣言に賛同しました

(2021.9.6更新)

市民社会スペースNGOアクションネットワーク(NANCiS)は、市民社会スペースに関わるSDGsの目標として、従来から目標16(平和と公正をすべての人に)を重視してきました。目標16は日本語で付けられた先述のキャッチコピーよりも幅広い内容が含まれ、あらゆる暴力の廃絶、法の支配と司法への公正なアクセス、参加型意思決定や情報公開の実現など、平和・公正・民主的な社会に向けたガバナンスを実現するための包括的な目標であるといえましょう。

SDGs目標16について、国際社会はさらに進んで「SDGs16+」という考え方に至っています。このSDGs16+に関して、世界の市民社会は2019年5月に「SDG16+に関するローマ市民社会宣言」、さらに2021年7月には2019年の宣言を補完する宣言として「SDGs16+のためのコミットメント、パートナーシップ、および行動の加速化の強化を求める新たな呼びかけ(SDGs16+に関する2021年ローマ市民社会宣言)」を採択しています。このたび、NANCiSは2021年宣言への賛同のお誘いを受け、熟慮の結果、これに賛同することを決めました。

2019年宣言および2021年宣言は、SDGs目標16、SDGs16+、それらが取り扱う民主的なガバナンスに関するさまざまな内容を包含しています。また、これらの宣言に至る経緯についても若干の解説が必要と思われますので、本件を担当された、国際協力NGOセンター(JANIC)の堀内葵さんに、以下のとおり解説文を寄せていただきました。解説文とともに、宣言文をご覧いただければ幸いです。



「SDGs16+に関するローマ市民社会宣言」について

堀内 葵

SDGsに含まれる17の目標のうち、暴力の廃絶や参加型意思決定、司法へのアクセス、情報公開など、ガバナンス課題に関わるものが目標16「平和と公正をすべての人に」です。目標1から15までは社会・経済・環境に関する個別課題についての内容であり、ガバナンスに関する目標16と実施手段に関する目標17は少し位置付けが異なっています。ここでは、SDGsの目標16に関して、世界中の市民社会組織が作成に関わった「SDG16+に関するローマ市民社会宣言」について紹介します。
 
まず、この宣言に登場する「SDG16+」という表現に注意が必要です。これは、2015年に国連総会で合意されたSDGsの目標16を基本としつつ、平和・公正・包摂に関する他の目標を一緒に捉えて、目標16をより広い視点で達成していこう、という考え方です。日本政府も含む31の国連加盟国から構成される「平和・公正・包摂的な社会のためのパスファインダー」という多国間組織が2017年に提唱しました。
 
SDG16+は大きく3つの要素に分けられます。それぞれ、「平和な社会」、「公正な社会」、そして「包摂的な社会」です。これらに目標16と関連する目標のターゲットが付随して再整理されています。
 
例えば、「平和な社会」では、ターゲット16.1「あらゆる形態の暴力の根絶」や16.2「子どもへの暴力根絶」に加え、ターゲット5.2「女性と少女に対する暴力の根絶」や8.7「強制労働、人身売買、子ども兵の根絶」、10.7「安全な移住、移民政策」などが含まれます。「公正な社会」では、ターゲット16.3「法の支配と司法へのアクセス」、16.9「法的な身分証明」に加え、4.5「教育や職業訓練への平等なアクセス」や8.5「同一価値労働同一賃金」、10.4「税制、賃金、社会保障政策などによる平等の拡大」などが含まれます。
 
このように、目標16が目指す平和で、公正で、包摂的な社会を実現するためには、目標16に含まれるターゲットだけではなく、他の目標に関するターゲットも同時に達成していかなければならない、という考え方です。
 
上述した通り、パスファインダーは国連加盟国による多国間組織ですが、市民社会組織(CSO)や非政府組織(NGO)も目標16を様々な形で推進しています。例えば、アジア民主主義ネットワーク(ADN)というアジア規模での民主主義を拡大させるためのネットワーク組織では、2018年以降、「民主主義フォーラム」をアジア各地で開催しており、目標16のターゲットに関する議論が行われ、政策提言も発表されています。毎年7月に国連本部で開催される持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)では、毎年いくつかの目標に焦点を当て、進捗状況を確認したり、各国の取り組みが紹介されています。2019年のHLPFで初めて目標16がレビューの対象となり、多くのCSOが報告書を発表したり、サイドイベントを開催したりしました。
 
このHLPFに先立ち、2019年5月にイタリア・ローマで開催されたSDG16+会議において、市民社会が加盟国、国際機関、その他のSDG16+関係者に向けた声明として採択され、発表されたのが、「SDG16+に関するローマ市民社会宣言:増幅された行動のための増幅されたコミットメントとパートナーシップ(Rome Civil Society Declaration on SDG16+: Endorse!Amplified Commitments and Partnerships for Accelerated Action: Rome Civil Society Declaration on SDG16+)」です。
 
同宣言では、誰一人取り残さない、人権に基づくSDGsへのアプローチ、人々を中心としたアプローチ、地球の保護、普遍的アプローチなどを提唱しつつ、国連加盟国による国内の開発計画や国際的な開発協力を、SDG16+に含まれるターゲットに沿うようにすべき、などの提言が盛り込まれています。また、SDG16+に関する主要なメッセージと幅広い行動の呼びかけを行なっており、HLPFと同年9月に開催された国連SDGサミットにおいて、SDG16に関する行動の加速を促すためのアドボカシーの中心的な焦点となりました。
 
ローマ宣言は、透明性・説明責任・参加を求める世界的なNGOのネットワークであるTAP NETWORKとそのメンバー、他の市民社会ネットワークの間で進められたオンライン会議や、ローマSDG16会議の直前の2019年5月26日に開催されたローマ会議市民社会デーでの審議を経て作成されました。この決議案を作成するための広範なプロセスは、Namati法制度にアクセスできない人々を助け、法律事務を支援する非営利組織)のCoco Lammers氏、平和構築と国家建設のための市民社会プラットフォーム(CSPPS)のPeter van Sluijs氏、武力紛争防止のためのグローバルパートナーシップ(GPPAC)のPascal Richard氏など、3人の共同ファシリテーターによってリードされました。
 
ローマ市民社会宣言の発表の翌年、世界中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が続き、各国政府の感染拡大防止を名目とした対策によって深刻な人権侵害が発生したり、情報へのアクセスが制限されたりといった事態が相次ぎました。こうした背景のもと、ローマ市民社会宣言に賛同した団体に対して、世界の状況の変化に合わせて宣言文を更新するので、意見を寄せてほしい、という連絡がありました。
 
その結果、新しい2021年ローマ宣言として、「SDGs16+のためのコミットメント、パートナーシップ、および行動の加速化の強化を求める新たな呼びかけ(A Renewed Call for Strengthening Commitments, Partnerships, and Accelerated Action for SDG16+)」と題された、SDG16+に関する2021年ローマ市民社会宣言が、2019年の宣言の補遺として、2021年7月に発表されました。平和で公正で包摂的な社会が、持続可能な開発だけでなく、持続可能な復興の中核であることを、特にCOVID-19のパンデミックが発生しているこのような時期に、グローバルコミュニティに緊急に伝えるものです。
 
世界的な危機が長引く中で、2021年のHLPFに合わせて発表された新たなローマ宣言は、目標16と2030アジェンダ(SDGs)の達成に向けた行動を加速させることを、改めて呼びかけるものです。
 
COVID-19危機以前に脆弱な人々の生活に影響を与えていたものと同じ構造的な不公正と不平等が、今では最も苦しんでいる人々に襲いかかっています。SDG16+の目標を達成することは、COVID-19への対応と復興、そして2030アジェンダの達成に向けて、公正かつ衡平に行うことが不可欠です。パンデミックの間、世界中の市民社会グループは、SDG16+を地域に根付かせ、平和で公正で包括的な社会を目指して活動を続けてきました。市民社会グループは、自らを危険にさらして、コミュニティへの重要な支援を行い、公衆衛生のメッセージを広め、ラストワンマイルの医療提供を確保し、公共サービスを向上させ、誤った情報に対抗して社会的結束を促進し、基本的な自由と不正に直面しているすべての人々の権利を守るために立ち上がってきました。
 
新たな宣言では、「SDG16+の視点から見たCOVID-19への対応、回復、レジリエンス」と題し、以下の提言を行なっています。
・包括的な成果のために、統合的なアプローチと相互連携を追求すること
・コミットメントと投資の動員および拡大を行うこと
・実施のための能力強化を強化すること
・データ、モニタリング、アカウンタビリティを強化すること
・市民社会の保護と市民社会スペースの拡大を行うこと
 
本稿が、日本社会において、SDGsの目標16の達成とともに、SDG16+という考え方やアプローチが普及するきっかけになれば幸いです。
 
2021年ローマ宣言について、詳しくは添付ファイル(英語本文および日本語訳)をご参照ください。


堀内 葵(ほりうち・あおい)
 
特定非営利活動法人国際協力NGOセンター(JANIC)シニア・アドボカシー・オフィサー。2021年8月まで、市民社会スペースNGOアクションネットワーク(NANCiS)世話人を務める。