名古屋の「私たちの『表現の不自由展・その後』」、不審な郵便物で中止

八木巌

 名古屋で7月6日から7月11日までの予定で開催されていた「私たちの『表現の不自由展』」が開催三日目にして、「爆竹のようなものが会館に送られてきて破裂した」という「実力行為」があったことを理由に名古屋市は会館を休館にし、利用を開催期間中(11日まで)停止しました。2019年「あいちトリエンナーレ2019」で「表現の不自由展・その後」が中止になり、その後再開されたのですが、期間が短く、抽選による入場などで、入場できない人が多くいました。今回の展示会の実行委員会は、あいちトリエンナーレで鑑賞者の権利が侵されたとして、自らによる開催を決め、2年にわたり準備をしてきました。表現の自由・会館使用許可にあたっての最高裁判例は、泉佐野市民会館事件の「単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要である」とされていること、また上尾福祉会館事件では使用不許可は「警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限られる」とされていることです。実行委は開催にあたって名古屋市側にこの判例を明示して、主催者、会館(指定管理者)、名古屋市、中警察と入念に打ち合わせをしてきました。7月6日、7日と無事開催してきたのですが、それが7月8日午前9時40分に主催者に何の説明もないまま会館側、警察の指示で人員と鑑賞者を退去させました。施設側の説明では「不信な郵便物を発見したため警察の判断で退避要請を決定」し、8日午後に名古屋市は「安全への考慮」を理由として休館を決定した、とのこと。実行委は正確な情報提供をもとめ、「具体的な危険性」の把握、対処をおこなったうえでの再開を要請しました。名古屋市は性格な情報提供をすることもなく、再開の可能性を検討することもしませんでした。実行委は使用停止された4日間の権利回復を要求しています。

 大阪では「表現の不自由展かんさい」が7月16日から18日まで開かれました。当初会館「エル・おおさか」は会場周辺で抗議などがあいつぐなか「利用承認の取り消し」を行いました(6月25日)。大阪の実行委は「処分取り消し」を求めて大阪地裁に提訴していました。そして7月5日に地裁は使用を認める決定を出しました。施設側は大阪高裁に即時抗告を行いましたが、15日に即時抗告を棄却、そして施設側は最高裁に特別抗告しましたが、これも16日に棄却。「表現の不自由展かんさい」は無事開催されました。爆竹のようなものが送られたそうですが、名古屋での教訓が生かされたのか適切に処置されたそうです。

 こうした「事件」があると「どっちもどっち」「左右の対立」という意見がでてきます。しかし、表現の自由は民主主義の根幹をなすものです。必要なのは、表現の自由を保障するための具体的方策を検討することです。それは行政(警察を含む)の問題でありますが、主催者や市民との連携・協力が必要と思います。


八木 巌(やぎ・いわお)

名古屋NGOセンター代表理事。市民社会スペースNGOアクションネットワーク(NANCiS)共同代表。