脅かされ続ける市民社会スペース

堀内 葵

新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の拡大防止策として、世界各国で「社会的距離政策」に基づくロックダウンが行われている。これは、罰則を伴う外出規制や長距離の移動制限、集会の禁止や参加人数の設定などの様々な制限が「市民社会スペース」に加えられていることを意味する。「市民社会スペース」とは、市民社会の自由な言論・活動のための社会空間である。COVID-19の拡大以前から、市民社会組織に対する法規制や権力の恣意的な行使、不公平な取り扱いや処分、不透明な手続きなどの形で「市民社会スペース」が狭められている状況が続いている。世界各国における市民的自由について調査し、提言活動を行っている国際NGOのCIVICUS(本部:南アフリカ共和国)は、COVID-19の拡大以降、各国でどのような制限が加えられたのかを調査した報告書『市民の自由と COVID-19 パンデミック 世界各地における制限と攻撃』(JANICなど3団体が翻訳)(※1)を発表した。同報告書によると、「市民社会スペース」の制限は、1)情報アクセスに関する不当な制限と検閲、2)重要な情報を発信した活動家の拘留、3)人権擁護者や報道機関に対する取り締まり、4)プライバシーへの権利の侵害と過度に広範な緊急事態権限、の4つに大きく分類できる。例えば、エルサルバドルでは、危機と政府の対応に関する記者会見の場でジャーナリストが質問をすることは許されていない。スリランカでは、公務員を批判する投稿をソーシャルメディア上で公開した者に対して法的措置を採る指示が全ての警察官に対してなされ、ケニアでは各地の警察が夜間外出禁止令を無視した人々に暴力をふるう様子が記録されていた。

これらの規制や暴力による市民の弾圧は、COVID-19を契機として発生したものではなく、すでに狭められつつある「市民社会スペース」を、意識的にせよ無意識的にせよ、より一層縮小させるために政府側が行っている「施策」の一部なのである。CIVICUSは、基本的な自由がウイルスの犠牲にならないよう、表現の自由を保護し、メディアの検閲を控えること、どのような制限も正当な手続きと合法性・必要性・正当性があり、国際的な法律や基準に沿ったものとしなければならないこと、などの9項目を提言している。

「市民社会スペース」に関する動きとして、毎年開催されるG20サミットに向けて市民社会が提言を行う仕組みである「C20(Civil Society 20)」による政策提言書を紹介したい。6月2日に公開された「C20政策提言書2020」では、G20サミットで議論される貿易や気候変動、国際保健、インフラなどの分野に関する市民社会からの提言に加え、「市民社会スペース」や「反腐敗」に関する章も設けられている。ロックダウンの影響でデモが開催できず、オンラインでのキャンペーンに移行していることや、外出規制が続くことからNGOとして現場での活動ができなくなっていたり、活動資金を獲得しづらくなったりするという状況が紹介され、「市民社会スペース」を守るためにG20各国は活動家やジャーナリストの人権を保護すべきである、と提言している。また、「反腐敗」の章では、医療システムへの巨額に資金投入についてはアカウンタビリティと公平性の観点から検証が必要であることや、人権擁護者や内部告発者を守ることは民主的で説明責任の果たされる社会の構築に不可欠である、と指摘している。

日本においては、「自粛警察」と呼ばれる監視活動や、感染者やその家族に対する誹謗中傷、営業中の店舗への嫌がらせなどが発生しており、政府だけでなく、市民自身が「市民社会スペース」を狭めるという悲しい現実がある。3月27日にSDGs市民社会ネットワークが発表した声明文「今こそ、SDGs の理念に基づく対策を」(※2)では、SDG目標16に基づいて「透明性と公開性を担保し、民主主義と法的手続きを遵守した政策形成と対応」を呼び掛けている。感染症対策や社会的影響への対処には、基本的人権の保障が必要不可欠であり、それは「市民社会スペース」の確保にもつながると言える。

(本稿は筆者が、さっぽろ自由学校「遊」会報誌『ゆうひろば』2020年6月号に寄稿したものを、同団体の許諾を得て転載したものである。)


※1.JANICウェブサイトより閲覧可 https://www.janic.org/blog/2020/05/22/civicus_monitor_covid-19/

※2.SDGs市民社会ネットワークウェブサイトより閲覧可 https://www.sdgs-japan.net/


堀内葵

特定非営利活動法人国際協力NGOセンター(JANIC)アドボカシー・コーディネーター。市民社会スペースNGOアクションネットワーク(NANCiS)世話人。